横浜地方裁判所 平成10年(行ウ)10号 判決
原告
枝村庸夫(X)
被告
横浜市長(Y1) 高秀秀信
右訴訟代理人弁護士
塩田省吾
同
阿部泰典
被告
神奈川県知事(Y2) 岡崎洋
右指定代理人
高瀬博光
同
石井和博
同
白井善裕
同
金森育子
同
嶋津良範
事実及び理由
第三 当裁判所の判断
一 本案前の主張に対する判断
1 本件協議成立取消しの訴えの利益について
宅地造成工事規制区域内において、宅地造成工事をしようとする場合には、造成主は、右工事に着手する前に、その計画が政令で定める技術的基準に適合するものであることについて、許可申請書を提出して都道府県知事の許可を受けなければならず(宅造法八条一項)、右工事を完了した場合には、その工事が政令で定める技術的基準に適合するものであるかどうかについて都道府県知事の検査を受けなければならない(同法一二条一項)。これに対し、都道府県知事は、右工事が右基準に適合していると認めた場合は、造成主に対し検査済証を交付しなければならない(同条二項)。また、都道府県知事は、宅地造成工事規制区域内において宅造法八条一項の規定に違反して同項の許可を受けずに宅地造成工事がされた宅地については、当該造成主等に対し、当該宅地の使用を禁止し、若しくは制限し、又は相当の猶予期限をつけて、擁壁若しくは排水施設の設置その他宅地造成に伴う災害の防止のため必要な措置をとることを命ずること(以下「違反是正命令」という。)ができる(同法一三条三項)。なお、同法は、国又は都道府県(指定都市又は中核都市の区域内においては、それぞれ指定都市及び中核都市を含む。)が、宅地造成工事規制区域内において行う宅地造成に関する工事については、国又は都道府県と都道府県知事との協議が成立することをもって八条一項の許可があったものとみなす(一一条)と定めている。
このような宅造法の一連の規定に照らせば、宅地造成工事に関する宅造法八条一項の許可(あるいは同法一一条の協議の成立。以下「宅地造成工事の許可」ということがある。)は、宅地造成工事が着手される前に、当該工事の計画が政令で定める技術的基準に適合していることを公権的に判断し、それを受けなければ右工事をすることができないとして、これに違反する工事が行われることを未然に防止することを目的としているということができる。そして、右工事が完了した後における都道府県知事等の検査及び違反是正命令は、当該工事が政令で定める技術的基準に適合しているかどうかを基準としてされるのであって(宅造法一三条三項によれば、宅地造成工事の許可を受けた宅地であっても、工事完了検査を受けた際に前記技術的基準に適合していないと認められたものは是正命令の対象とされている。)、当該工事が宅地造成工事の許可に係る計画どおりにされているかどうかを基準とするものではない上、違反是正命令を発するかどうかは、都道府県知事等の裁量に委ねられている。このように、宅地造成工事の許可(協議の成立)は、事前予防のための制度であって、事後に違反工事を是正する効果を伴うものではないというべきである。したがって、宅地造成工事が完了した後には、宅地造成工事の許可はその目的を果たしようがなく、仮に工事完了後に右許可を取り消してそれがない状態にしても、予防すべき対象となるこれからされる宅地造成工事というべきものが存在せず、これから許可をし直すということがあり得ないので、工事完了後の宅地造成工事の許可の取消しは無意味といわざるを得ない。
そこで、これを本件についてみるに、前記認定の事実によれば、本件宅地造成工事は完了し、平成一〇年七月三〇日付けで被告市長から横浜市に対し検査済証が交付されたというのであるから、原告は、本件協議成立の取消しを求める訴えの利益をもはや有しないものといわなければならない。
2 本件裁決取消しの訴えの利益について
右のように、原処分である本件協議成立の取消しを求める訴えの利益がなくなった場合には、原処分に関する審査請求を却下した裁決(本件裁決)の取消しを求める訴えの利益も消滅するものというべきである。なぜならば、審査請求は、原処分が違法又は不当であるとしてその取消しを求めるものであるから、裁決の取消しを求める訴えも、究極的には原処分の取消しを求めることにその目的があるものというべきところ、右のように、原処分を取り消す法律上の利益が消滅した場合、もはや裁決の取消しを求めることは意味がないことになるから、その取消しを求める訴えの利益もなくなるというべきだからである。
二 そうすると、原告の本件訴えは、その余の点について判断するまでもなく、いずれも不適法であるから、これを却下することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 岡光民雄 裁判官 近藤壽邦 近藤裕之)